56日目

八戸港十和田湖 宇樽部キャンプ場

本州初日は、とても楽しい一日となりました。詳しくは後日書きますが、日本人に生まれて良かった!と心の底から思える一日でした。
しかし夜は大荒れの天気。雨は激しく降り、風は吹き荒れ、雷が轟く。まあ、悪天候にはさすがに慣れました。雨がフライシートに当たる音も、今では良いBGMです。しかし、この音が後々大きな問題を引き起こすこととなる。
明日は十和田湖をぐるっと、回る予定です。



つぶらな瞳が私を見ていた。


どこか悲しげな目。


見るな、見るんじゃない。


そんな目で見つめられても、どうしようもないんだ。



フェリーから下りる際、隣に止まっていたのはドナドナトラック。ずっと牛に見つめられ、ふと今日の行程を思いついた。



「そうだ、マックいこう」




ついに本州入り!気持ちよく晴れ渡る青空!青空って気持ちいい!
牛肉食べて元気も出たし走ろう!けど、どこへ?
とはいっても行く場所は決まっていた。アルジャーノンさんから十和田湖を勧められていたので、そこに行くにのは決まっていたのだ。しかし、ルートが分からない。
そこで登場ツーリングマップル東北。やっぱり地図は紙に限る。特にiPhoneの地図がほとんど使い物にならなくなった今は、頼れるのはツーリングマップルだけである。
十和田湖へ向かうルートは二つ。北の102号線と、南の454号線だ。102号線のほうが主要道路っぽいが、港からはだいぶ離れている。たぶんマイナーであろう454号線を通り、十和田湖へ向かうことにした。

少し走ると市街を抜け、田舎の風景へと変わっていく。その景色が、とても懐かしく思えた。

北海道はいい景色だったが、日本離れした美しさだ。それもそれでいいのだが、こういう普通の「THE 日本」の風景も素晴らしい。山と山の間の僅かなスペースに田畑があり、道路が走り、とても窮屈ながら、これが日本の風景である。曲がりくねった道を進み、西へ西へと進んでいく。

道中はとても楽であった。道路は狭いので、川に並行して走る農道を選んだが、これが大正解。農耕車も走っておらず、スイスイ進む。しかし今日も向かい風。たまには追い風の中を走ってみたいものである。

キリストの墓やピラミッドという目を疑う観光地を通り過ぎると、次第に坂が辛くなっていく。なに、北海道でいくつもの峠を越えてきた。このぐらいの坂楽勝だ。
なんて思ったのもつかの間、すぐにゼーゼー言う亀猫の姿があった。

辛い!かなり辛い!ここは無名の峠。峠というかただの山道。そうだ、山道って辛いものだった。本州と北海道では山道の作りがぜんぜん違う。北海道の坂はゆるやかな登りが永遠続くが、本州では短い距離で一気に標高を上げる。そのため、ヘアピンカーブは当たり前。なかなか西へ進まない。
地平線が見える坂道も終りが見えずしんどかったが、急カーブが続く坂道も終りが見えずしんどい。しかし登りやすさでは圧倒的に北海道が上。こんな無名の峠でゼーゼー言って、箱根を越えることができるのだろうか?

昼飯をとる予定だった場所、道の駅「しんごう」へ到着。が、どうも思ってた道の駅と違う。ただの物産館。トイレすら無い。食事を取ろうとしたが、おにぎりぐらいしか売っていない。仕方ない、もう少し進んでみよう。
しかし腹ペコ。買っていたパンや行動食を食べて腹を持たせる。すると別のサイクリストがやってきたので、脊髄反射で話しかける。が、私は当たり前のように話しかけたが、どうも相手は「お前誰やねん」という顔をする。そうか、北海道では当たり前だけど、普段は自転車に乗っているからといって話しかけないか。北海道では「チャリダー」と呼ばれ、一定の市民権があったような気がする。が、ここでは「天然記念物」というか「新種の生命体」のようにかなり奇異な目で見られる。北海道に来る前だってそうだった。北海道が特別だっただけだ。また超絶に浮いた存在に逆戻りか。

その後も登り。かなりキツく、ブラインドコーナーが続く。ペダルを回そうとするが、思ったほど元気が出ない。昼飯を食べてないのが原因か?しかしこの辺に食事ができるところなんて…あった!
迷ヶ平のドライブインと言えば聞こえばいいが、ドライブインとは名ばかりの八百屋。しかし食堂もやっているので、食事を摂る。500円で山菜ラーメンを頼んだが、ラーメン以外にも天ぷらや果物など、ボリューム満点。喋り出したら止まらないご主人にからかわれながら食事をする。

腹も膨れて体も温まった。さあ、十和田湖までもう少しだ。ここで青森県から秋田県へ県をまたぐ。とその瞬間、標識を越えた瞬間ポツポツと雨が降り始める!ええ!?晴れてたよね?振り返ると青空。しかし前は雨雲。どういうこと?青森県は雨雲バリアみたいなの開発してたの?
まだレインウェアを着るほどではないので気合で進む。すると左手にいいものが見えた。風力発電所だった。道北でいくつも見たが、それに負けず劣らずの規模だ。へ〜、秋田にもあるのか。
しかし感心してもいられない。だんだんと雨脚が強くなってきたからだ。ずっと登りなのでできる事なら止まりたくない。しかし、さすがにレインウェアを着ないと下着までぐちょぐちょになってしまう。仕方なく何もない道路の途中で停車し、レインウェアを着こむ。着込んでいる間にも雨脚が強くなり、土砂降り一歩手前ぐらいの規模となる。
十和田湖まで距離は短いが、坂がきつい。本当は今日十和田湖を半周ぐらいする予定だったが、まったくペースが伸びない。
どうする?迷ヶ平にキャンプ場がある。そこまで戻る?


大丈夫、行ける。


相変わらず根拠のない自信で前へ進むことを決める。

雨脚が弱まり、日差しがさす。すると空には虹が浮かび上がる。根拠のない自信がさらに強いものとなった。


そして気がつくと登頂していたらしい。急なダウンヒルが始まる。

濡れた路面なので、全然ブレーキが効かない。ブレーキシューがズルズルと溶けていく感触が分かる。ほぼフルブレーキでようやく20キロぐらいまでに減速できるといったところで、かなり危険。逆にブレーキを使わず攻めてみよう、と危険な考えに至り、やってみたが九死に一生だった。高速でコーナーを抜けようとしたら、抜けたのはタイヤのグリップ力。濡れた路面と落ち葉でズルズルと自転車が流れていく。ブレーキをかけても止まらないし、いや、これは怖い。でも北海道では味わえない道だ。ロードバイクだとダウンヒルも気持ちよく抜けていけそうだ。しかしフル装備の自転車はゆっくりズルズルと降りていくしか無い。
ようやく湖畔に到着。宇樽部キャンプ場が一番近いが、ここは一張り1000円とちょっと高い。かといって次のキャンプ場まで行く元気もないので、諦めて宇樽部キャンプ場へ向かう。
キャンプ場は湖畔の森の中にあり、平地はわずか。しかし施設はよく整備されており、管理人の人柄も良かった。コインシャワーなどもあり、価格分の満足は得られた。
ぶらぶらとテントを張る場所を探すが、目ぼしい場所はテントが張れており、すこし高い場所にある広場に張ることにする。
テントを張り、さてどうしよう?とりあえず夕食の準備として米を水に付ける。今日から新米だ。どんな味がするのかな?給水が終わるまで少し時間がかかる。焚き火でもしようか?と薪集めしようと思ったらまた雨。これはもうテントの中に引きこもっておこう。
必要なものだけテントに収めていると、広場に車が入ってきた。乗り入れオッケーなキャンプ場なので珍しいことではないが、ルーフに乗っていたモノが問題だった。
ルーフに乗っていたのは二台のロードバイクコルナゴピナレロだ。それも安いモデルじゃなくて、かなり上位のグレードだ。コルナゴピナレロって聞いてわからない人は、まあフェラーリとポルシェの自転車版とでも思っていてください(全然違うけど)。とりあえず、ついてるパーツから50万近い気はした。いや、100万かもしれないけど。イタリアの自転車はやっぱり格好いい!いいな、乗りたいな。今日の山道もあの自転車なら楽しく越えられただろうな。
テンション上がって話しかけようと思ったが、今日の昼を思い出した。そうだ、誰構わず話しかけるのは良くない。旅人と違い、現代人は必要最低限の会話しかしないものだ。と、本州初日から達観しきった考えになってしまった。
が、その後私はその人達と夕食を共にすることになる。これみよがしにテントの横に自転車を置いてたので、気になったのだろう。話しかけられそういうこととなった。

「やっぱり話しかけるべきだ」

そう実感した。北海道で身につけた図々しさを、本州でも発揮してやろう。どんどん話しかけてやるぜ!


そして話しかけてもらったのは、なんとブログ「亀のように上り蝶のように下る」のロータスさんyoutubeで動画も沢山上げている方で、話を聞くと経歴が凄い方でした。週末はいつも"お弟子さん"とかなり過酷な走りをして楽しんでいるそうです。話を聞いていると楽しそうで仕方ない。いろんな人とあちこち走られており、私の理想のような自転車生活をされていた。くそう、ロードバイクで一緒に走りたいぜ!

夕食を御馳走になっていると、遠くで轟々と炎が舞い上がっていた。焚き火だろう。北海道ほど寒くないと思っていたが、気温の低下が緩やかなだけで、夜は普通に寒い。あっちは暖かそうだな、と思っていたらロータスさんが遊びに行って、私達も合流することに。
カヌーをしに集まっているようで、焚き火を中心にして話題が飛びかい、話が盛り上がる。
楽しい時間は突然の雨で遮られる。降ったり止んだり忙しい日だ。今回はかなり強く、風も出て、雷がなっている。さすがにお開きだ。
テントに戻り、念のためペグを打ち直す。風でフライシートが煽られているが、たぶん大丈夫だろう。


しかし、予定外で宇樽部キャンプ場に泊まったが、こんな経験ができるとは思わなかった。本州ではこんなことあるとは思わたなかったので尚更だ。やっぱり日本人っていいよね。そう思えた一日でした。


しかし、その夜ある問題が発生するのだった…。