神福八日目 兵庫県尼崎市ホテル〜有年駅近く高架下


なんとなく、朝から嫌な感じだった。しかし道中はなかなか良い感じで、今日も滞り無く一日が終わると思っていた。
今日はどこかで野宿をしよう。はじめは軽い気持ちだった。しかし、時刻が0時を過ぎても、ペダルを回し続ける姿が、そこにはあった。

いつもホテルのチェックアウト時間ぎりぎりまで粘ってしまうので、今日はさっさと支度して出発しようと思っていた。実際てきぱきと準備し、8時には出る予定だった。が、荷物を確認していて、あるものが見当たらない。それが旅レコだった。ある意味この度でもっとも重要な道具で、有ると無いとではモチベーションが違ってくる。部屋の中、バッグの中をくまなく探すが、見つからない。部屋にない。そうこうしている間にチェックアウトの時間が来てしまい、この事件は神隠しとして迷宮入りすることとなる(はずだった)。
旅レコが無いためイマイチ気は乗らないが、どうせ今日は海沿いを走るだけの簡単なルートである。実際神戸までスイスイと進んだ。
途中のコンビニで同業者に出会った。私と違い軽装ながら、とても特徴的な装備だった。その人も九州に向かっているらしい。しばし情報交換した後出発。その後昼食時に激励をもらうなど、落ち込んだモチベーションも少しずつ戻ってきていた。

小さくて見づらいが、途中で見つけたひまわり畑(?)。やはりひまわりには真っ青な空が似合う。

そして、予想以上にデカかった明石海峡大橋!そうだ、これからいっそ淡路島経由で四国渡っても楽しいかも?一気にテンションが上がり、早速たこフェリーの運行状況を確認しようと思ったら、

たこフェリー廃止
/(^o^)\

あれ?結構最近の自転車雑誌に淡路島サイクリング特集してたよね?それってもしかしてこのため!?えーー!!じゃあ自転車で淡路島ってどうやって行くの?無理なの?


一度上がったテンションがまた落ち込み、国道を走る元気が無くなった。というわけではないが、ちょうど海辺に良い感じの道があったのでそっちを通ることに。浜の散歩道というところらしい。なかなか走り易かった。

海水浴やらバーベキューで楽しんでいるのを妬みながら進む。そういえばだいぶ日も傾いてきた。そろそろ寝床を決めなければ。ちょうどこのあたりの浜辺はテントを広げるには良さそうだが、まだ少し早い。もう少し進んでから決めよう。

そして高砂海浜公園をこの日の寝床に決め、真っ直ぐ向かう。高砂海浜公園までサイクリングロードがあり、迷わずに到着。とりあえず下見し、なかなか寝るには良さそうだと分かった。が、どうなんだろう?だんだんと日が沈み、本当にここでいいのかと不安になってくる。人里から離れ、実際は人気は殆ど無い。もう少し北に向かえば住宅地の中に運動公園がある。そこの方がいいのでは?
少し下見して、ダメなら高砂海浜公園に戻ってくればいい。そんな気持ちで運動公園へ向かう。高砂海浜公園程ではないが、寝ることに問題は無さそうだ。が、逆に人気がありすぎる。日が落ち来るのを待つためにベンチに座っていた、なんとなく住民の人達の目線が痛い。日が沈み、運動する人もまばらになってくる。そろそろ寝る準備をしようかと思ったが、先にトイレに行く事にした。が、ちょうどトイレが工事中で、トイレは体育館の中にした無さそうだった。なんとなく入るのはためらわれたので、近くのコンビニまで足を伸ばすことに。しかしコンビニの近くにファミレスがあるので、せっかくなのでそこで夕飯も済ませることにした。
食事中、改めてあそこでいいのか不安になる。やはり高砂海浜公園?初めての公園野宿を前に、チキンになる私。道の駅なら寝られるのに、なんて思って調べてみると、あった。ここから30キロほど先だが、確かにあった。時刻は8時。ダッシュで向かえば10時には着くはず。
急遽予定を変更してナイトラン開始!夜に走らないなんて誰が決めた?なんとなく今まで避けていたが、よくよく考えると、普段夏に自転車にのるときは早朝か夜だったではないか。夏の夜の風は気持ちがいい。夕食も食べて体調も万全。まるでサイドバッグを外しているかのように自転車が軽く感じた。動いても夜風に冷やされるため、ぐんぐんペースがあげられる!夜道をかっ飛ばしながら「道の駅みつ」を目指す。
そして、10時頃無事到着。しかし、なんか思ってたのと違う。人気がなさすぎる。道の駅のイメージは、もっと車がいるイメージだが、ここは廃屋のごとく静まり返っていた。車が一台だけいて、中から話し声が聞こえるが、あまり関わらない方がいいタイプだと分かる。とりあえずぶっ飛ばしてきたので疲れた。深いことは考えず寝よう。テントを広げ、テントに入ろうとして、やっぱりやめた。とりあえずトイレに行こう。トイレを済まし、テントに戻ると野良犬がやってきて、ものすごい剣幕で吠えられた。本当に噛み付いてきそうなので退散。というか、トイレの近くが明るかったので、そっちに移動したかったのもある。
屋根のある売店の前で、フライを外したテントを立てる。よし、覚悟決めて寝よう!マットを敷いて、スタッフバッグに入れたままの寝袋を枕代わりにして横になる。これが案外気持よく、今までのダイソーの空気枕より断然寝やすそうだ。
時刻は11時。周りの状況が気になって眠れない。人気が全くないが、誰も居ないわけではない。時々走り屋が回頭するためにドリフトしながら入ってきたりする。
ここで、大丈夫なのか?
一度不安になりだしたら止まらない。とりあえず外の様子が気になる。どうせテントの中は暑くて眠れない、という理由を考えてテントを撤収。ベンチに体を預けて寝ることに。愛車を眺めながら寝るのはなかなか良く、3度めの寝床変更で一番落ち着くことができた。が、まだ寝るには心配である。しばらく頑張ったが駄目だ。心臓がバクバクして眠れない。安心できる寝床が欲しい!せめて人気が欲しい。添い寝してくれる女子大生とは言わない。近くに誰か居るという安心感がほしい。調べてみると数キロ離れたところに小さな人里がある。こうなったら安心な寝床のためにどこまでも走ってやんよ!こうして、再びナイトランが始まった。
先日運転手さんのコメントで「国道250号線風光明美」という情報をいただいていたが、その通りだ。月明かりに照らされた海がキラキラと光り、とても幻想的だった。恐らく昼はまた違った顔を見せてくれるのだろう。が、今は日の出まで待ってられない。とにかく進む。ようやく人里に来たが、すっかり街は寝静まって降り、人気は無かった。私は、いったいどこなら眠れるのだ?
しょうがなく先へ進む。いつか大きな街に出るだろう。もう距離なんて気にしない。だが、疲労と眠気は確かに積もっていき、だんだんとペダルを踏む力が抜けていく。こんなところでハンガーノックはシャレにならない。レーサージャージの後ろポケットに行動食を入れ、走りながら食べる。普段は休憩を兼ね、行動食をとるときは自転車を降りるが、今は止まっていられる精神状態ではなかった。とにかく不安で、自転車で走っているのが一番落ち着いた。
しかしどんどん山は険しくなる。ボトルの水もだんだんとなくなってくる。走り屋に煽られながら先に進み、入り組んだ海の向こうに明かりが見えた。街の灯か?そんな淡い期待に胸を躍らせるが、だいたいが工場だったりするだけだ。そしてまた大きな坂が目の前に立ちふさがった。
もう体力も気力も底をつきかけていた。力を入れようにも力が出ない。…だるい。…眠い。


私は普段自転車に乗っている際、いくつかルールを決めている。
まずどんな小さな信号も守ること。守らないと死ぬ。
そしてどんな坂でも漕いで登ること。降りると死ぬ。

その精神で、気合を振り絞って登る。もう何が正しいとかよくわからない。何に焦っているかもわからない。ただ、この時は怖くて、がむしゃらだった。
そうこうしているうちに、気がつくと国道2号線に出てしまった。意味もなくかなり北上してしまった。250号線を使って西へ行くつもりだったので、これは予定外だ。しかし国道沿いなら人気があるだろうと思ったがそんなことはなく、ど田舎だった。
ここで時刻はついに0時を回った。さすがに精魂尽き果てようとしていた。そんな時、一際明るい建物を見つけた。そこは駅だった。看板には「相生駅」と書かれていた。小さな駅だが、今は駅というものが有難い。一瞬ここで野宿しようかと思ったが、なにか工事中で、土方のおじちゃん達が線路で作業していた。さすがに寝るのは気が引けたので、駅前の段差に腰を下ろし、しばし休憩。白い目で見られるが、今はそんなこと気にしていられない。夕食からぶっ飛ばし続け、今に至る。とにかく疲れた。夕食のエネルギーを使い切ったのだろう。まるで力が出ない。さてどうするか…。
国道二号線深夜といえど車通りは少なくない。はっきり言って多い。さらにほとんどが大型トラックである。深夜のトラックドライバーは、お世辞にも運転が丁寧とはいえない。この狭い道で無事に渡ることができるのか?しかし戻るにもまた坂を越えないといけない。今の体力でそれができるか疑わしい。
ここにととどまることも考えたが、私はフロントバッグから最後の行動食に手を伸ばし、先に進むことに決めた。


正直、生きた心地がしなかった。あ、死んだ。とマジで何度かそう思った。そのくらいトラックとニアミスしながら走った。トラック運転手もそう思っただろう。正直ごめんなさい。
さすがに国道を通るのは無理だ!脇道を見つけそっちに逃れる。そこは街灯のない真っ暗な田園地帯。しばらく自転車を止め、自転車にまたがったまま休む。よく見ると前照灯が切れかかっていた。
ちなみに今回の旅で使っているライトは、キャトアイのHL-EL530。より明るいHL-EL540も持っているが、連続点灯時間が一桁少ないので、長時間の行動を考えてEL530を選んだ。また、私は普段からライトを一つで使うことは少なく、最低でも2つつけるようにしている。今回はUSB充電タイプのライトで、サイズは小さいがかなり明るく、点滅させることもできる。連続点灯時間の短さが欠点だが、モバイルバッテリーからの充電ができるのが、USB充電タイプの強みである。
2灯の使い方は、片方で地面を照らし、片方を点滅させる、といった使い方や、奥と手前を照らす、といった使い方がである。2灯あると何かと便利でオススメです。これに3灯目のヘッドライトがあれば完璧だが、残念ながらブルベするつもりではなかったので持ってきていない。
しかし、電池を交換しようとしても、電池がどこに入れたか分からない。確かホテルを出るとき、取り出しやすい場所に入れたはずだが、思い出せない。慌てて何も考えられない。仕方なく元気の無いライトのまま、夜道を走ることにする。USB充電ライトの光量だけでは不安だが、幸運なことに今日は月が出ている。月明かりだけでも走れたのが救いだった。
その後も西へ西へと向かうが、さすがに限界が近づいてきた。眠くてだるくて体が動かず、ついにペダルを踏むのも難しくなってきた。もうどこだっていい。どこでも寝てやる。自暴自棄にも似た考えが浮かんだ時、ふと小さな高架が見えた。道路の下を流れる川、これはまさか。野宿スポットに、高架下がいいという情報を思い出した。小さな高架だが、もうどこだっていい。川辺にはなんとか自転車を下ろせそうだ。高架下は真っ暗で、何があるかわからない。恐る恐る突入してみると、幸運なことに何もなかった。先客もおらず、落書きも無い。ガラの悪い人たちの溜まり場では無さそうだ。
もう眠くてしょうがない。フライを付けず、テントを組み立て、マットと枕代わりの寝袋だけ中に投げ込む。自転車とバッグはそのまま、鍵もしない。汗でベトベトしているが、気にせずテントに潜り込み、強引に寝ようとした。
しかし、またここで不安になってくる。だが、もう動く気力はない。もうどうにでもなれ!


時刻は2時を回っていた。必死に心を落ち着かせ、だんだんと落ち着いてきた。すぐ上には国道が走り、車が通るたびに大きな音がし、周囲ではいろいろな虫の鳴き声もする。しかしこの2つはそこまで気にならなかった。しかし問題はウシガエル。結構近くいるようで、かなり五月蝿い。それでも寝ようとするが、無理。いろいろあったが、最後にこんな問題に落ち着くとは滑稽である。
そういえば耳栓買っておこうとして忘れていた。ん?耳栓?
そういえばカナル式イヤホンがあった。あれは遮音性が高く、耳栓の代わりにもなる。試してみると、周囲の音が消えた。ウシガエルの鳴き声を残して。
もう頭にきた。iPhoneの音楽を大音量で流しながら寝ることにした。こんなことしていてはいつ眠れるものか…。